週末は別荘で過ごし、森に包まれる ―渡邊様の八ヶ岳暮らし―
「森に包まれるように人間は暮らしている。」
今年の5月で丸2年の八ヶ岳ライフを満喫されている渡邉さまご夫妻。団塊世代ど真ん中のお二人は、何と別荘を手にいれたときはお子様にも内緒でした。
今は、週末ごとの時間をできるだけ別荘で過ごされています。「普段のハードな仕事とのギャップを調整するためなんだけどね」と、
森で過ごす時間を大変貴重にされています。
森が変わってきています。
「まだ2年ですけどね、最近鳥の種類が減ってきたように思うんですよ。毎日自然を見ていると、そんなわずかな変化に気がつき始めるんです。」
渡邉さまは、若い頃から山登り、それも岩山を登るほどの本格的な登山の経験があります。
山に暮らすことは若い頃からの夢でもあり、八ヶ岳にはまだ豊かな自然が残されているのと、
ご夫婦でも「山」を楽しめるロケーションであることから、この地を第二の住まいとして選ばれました。
「鳥が減るということは木の数も減っているということだと思います。樹種がね。
さまざまな原因があるでしょうが、別荘がたくさん建てられた影響もあると思いますよ。
私たちがこうやって自然の中で暮らすことの影響もね。」
設計士にもご要望をはっきり伝えていただけたので、それに応えることが出来たのだと思います」
しかし、それ以上に森の問題の大きさに渡邉さまは気がついたと言います。
「森の姿がおそらく昔に比べると大きく変わっているんでしょうね。
八ヶ岳のカラマツ林が植林された森ならば、下草刈りや間伐は必ずしなければならないしい、
自然林ならそのままにしておかなければならないのに、中途半端に人間が手を入れて、そのままにしてしまうと、逆効果になってしまう。」
つまり、森に人間が一度手を入れたら、ずっと入れ続けなければ森は守れないと渡邉さまは言います。
「老木が倒れると、どうしますか?人間が入ると、林業の方たちが倒木をかたづけますよね。
それに里山を保存しようという運動もあります。一度きれいにするとどうなりますか?」つまり、倒木が倒れるのも、
草が生い茂るのも自然活動の循環であり、その流れを人間が変えると、自然の活動に影響が出てくるということ。
「だから逆に荒れてしまった里山が最近増えてきているんですよ。」
そうすると、どうなるか?自然林で老木が倒れると、大きな空間があき、空気や光が差し込み、そこに新しく花や植物が育ちます。
手を入れられた森は、常に間伐などの管理が必要になります。
日本は森に恵まれた国土であるということ。
「ここに来て一番驚いたのはまきば公園で見た風景ですよ。」と言って渡邉さまが一枚の写真を見せてくれました。
そこには群れをなして牧草を食べるニホンカモシカの群れが映っています。
いつもなら牛たちが放牧されている牧場にシカが群れをなしています。
「私も庭にコシアブラと思しき苗木を植えたら、すぐに若葉をシカに食べられてしまいました。
シカに限らず、イノシシもかなりいるようです。ちょうどイノシシの通り道にもなっています。
近所の方は庭の被害に遭っていますよ。ここ八ヶ岳でも、森が変わってきてるからこのようなことがおきているんでしょうね。」
今となってはシカも明らかに頭数管理の必要性があると、渡邉さまは言います。
「アメリカでも一時バイソンが絶滅の危険性があり保護対象になりましたが、頭数が増え出したら今度は駆除を行いました。
自然の姿を見ながら臨機応変に対するアメリカの姿勢は見習うべきところだと思いますよ。」
シカが増えすぎると、植物や樹種への圧力がかかりすぎて、樹種が減ってしまうということも考えられると言います。
このように森の姿が変わってしまうことで自然のバランスが崩れてしまっているということではないかと、渡邉さまは今の姿を心配しています。
「森林インストラクターという資格があるんですね。今その資格をとろうと思って家内と二人で勉強しています。
我々が正しい知識をつけないといけませんからね。そもそも日本の国土の70%は森なんですよ。そのうちの約半分が人工林。
こんなに恵まれた国土ってないでしょう、他には。ヨーロッパを見ても、イギリスには森がなくなった時期があり、
ドイツも一度森をすべて消失してしまっている。北欧には残っていますけどね。」
日本は豊かな森に恵まれた国土であることを渡邉さまは、まさにここ八ヶ岳で満喫されています。
自然の美しさをそのまま映す。
「ここに来るようになって、写真を本格的に始めました。野鳥を見る会の延長でね、ここで鳥たちの写真を撮っています。」
最近の自信作は、すぐ目の前の森でフクロウを捉えたショット。
夕方、散歩に出かける途中でフクロウの声を聞き、望遠レンズで捉えました。
「フクロウがいるというか、戻ってきているということは、小動物がいるということです。
ネズミなのかミミズなのか。そう考えると、自然は徐々に回復しているのかもしれませんね。我々人間が住んでいる身近な場所でね。」
渡邉さまの愛用機は長年愛用したニコンのコンパクトカメラ、フィールドスコープと、キャノンのデジタル一眼レフカメラ。
600ミリ相当の望遠レンズを装着して自然の中に佇めば、さまざまな自然の姿を発見することができると言います。
「まだまだ私たち人間は知らないことが多すぎます。まずよく自然を知るためにも、自然の中に身を置くことです。
最初は好きな花を見ることから始めて、森全体を見渡し、そして自然全体の中に私たち人間は抱かれるように生きているということを知るべきです。」
仕事では最先端の技術開発や特許というまさに国際的な競争の中に身を置いている渡邉さま。だからこそ、低炭素社会の訪れに伴って、
もっと私たち人間が森の中に身を置き、毒素を吐き出しながらさまざまなことを経験する必要があると力説します。
ノーベル賞を受賞したクラゲの博士も同様のことを言っていました。
本当の教育は自然にもっと触れるところにあると。
そこに創造性や協調性、自立性などを養う自然の力が備わっているということなのだと思います。
(この記事は2009年のインタビューです)
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