八ヶ岳、本気でファーマーズ・ライフ。八ヶ岳スタイル22号
本当にていねいにいろいろなことを教えてくれます。こちらの方は。
週末移住にしても、定住にしても、やはりこちらのリズムに合わないと、なかなかうまくいかないという人も多いのかなと猿田さんは言う。
「東京の会社を定年で辞めて、こちらに来て、さあ田舎暮らしだって、力んでしまうと、なかなかうまくいかないことも多いんですね。自分で思うようにすべてが上手く行かないし、どうしたらいいのかも分からないことだってたくさんありますからね。」
しかし猿田さんはさすがにコミュニケーション学のプロだけあって、地元の方とのコミュニケーションが上手にいっている。ちょっとしたきっかけさえあれば、どんどんお付き合いの輪が広がっていくので、そんなきっかけを見つけることがここでうまくやっていくコツだという。
「こちらの方はここのペース、リズムで暮らしているので、そんなペースに合うようにしないとね。ご主人が定住で奥様は週末だけっていう方が多いですけど、男のほうが順応性があるのかな。
野菜づくりを教えてくれるのは農家さん。木工は農家さんが紹介してくれた大工さんが先生。墓地も元はと言えば農家さんが地区の組合のみなさんを紹介してくれたのが縁ですからね。地元の方との交流がうまくいけば、ほとんどのことがうまくいきます。本当にこちらの人はていねいに、手を休めていろいろなことを教えてくれますから。ありがたいことです。」
昼は農作業、夜は一杯やりながら木工作業。テーブルの上に並ぶ小物や飾り棚なども、ご主人の作品。そして、冬に使うストーブ用の薪もすべてご主人が用意する。
「薪用の木も全部自分で調達してきます。もちろん薪割りもすべて自分でしますよ。農作業に薪割りまでしたら、本当に疲れてしまうので、夜は早い時間にぐっすりですよ。朝までね。」
奥様も同様だ。
「本当にここに来て農作業をすると、夜はよく眠れます。特に夏は草との戦いですから、本当に疲れるんですよ。体重も減ります。でもそれが一番。それに水が美味しいので、大好きなコーヒーもとっても美味しくいただけます。」
「僕は水割りが美味しいね。」
別荘地の水はごく普通の水道水だが、その水道水が千葉の自宅の水道水よりも美味しいと言う。千葉に帰るときもここの水を持って帰って使うという惚れようだ。
「もちろん空気もいいから、食べるもの、飲むもの、すべてが美味しく感じます。それに自分たちで作った野菜ですから、なおさら美味しい。味噌づくりもレベルアップしようと思っています。」
標高の高い農地では豆、特に大きな花豆が収穫でき、豆類には適しているので、今度は大豆づくりにも挑戦する予定。一方、標高の低い3号畑では葉物野菜の他にも、夏には大きなスイカもゴロゴロ採れるという。
「野菜は収穫シーズンには集中して採れるので、近所のみなさんに分けてあげます。」
直売所で販売しては? という問いかけには、「売るなんて可哀想でできない、子供たちと同じですよ」と奥さまは愛情たっぷりに育てた野菜を、心の通った方に食べていただくのがまた嬉しいという。
「おかしなものでね、野菜をこれだけ作っているのに、買い物に行って一番買うのも野菜なんです。もう食べるものがほとんど野菜中心になってしまったので。」
そして、まだまだ夢は広がる。
「収穫だけではなく、もっと野菜づくりの川上に遡って行くのが夢で、自分で作った野菜から種子を採って、その種でまた翌年収穫するという、自家種苗のサイクルも実現したいと思います。」
温泉もたくさんあるし、地酒もある。水がいい八ヶ岳だから当然お酒も美味しい。図書館や美術館もたくさんある。農作業だけでなく土づくり、薪割り、味噌づくりをしたりと、とにかく一年中忙しくしている猿田さんご夫妻。
「豊かな自然だけでなく、文化的な施設にも恵まれているので、本当に暮らしやすくて、いいところですよ。」
今年の夏も猿田さんの畑ではきれいな野菜たちがきっと豊作になっていることだろう。私たちもそう期待しよう。
(この記事は2013年のインタビューです)